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    なぜDXは止まるのか④: 「全部変えようとするから、現場が止まる」――公益法人のDXが失敗する順番

2026.10.09
なぜDXは止まるのか④: 「全部変えようとするから、現場が止まる」――公益法人のDXが失敗する順番

トピック・コラム

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前回は、担当者依存についてお話ししました。紙の書類に残るのは処理の結果だけで、科目や事業区分を選んだ理由は担当者の頭の中にしかない、という内容です。

直近の処理を振り返り、規程やマニュアルに書かれていない判断が思いのほか多く見つかった方もいるかもしれません。そうなると、次に浮かぶのは「この機会に、まとめて整えよう」という考えではないでしょうか。

ただ、意を決して始めたはずの取り組みが、いつの間にか止まっていた。そんな経験をお持ちの方も少なくないと思います。今回は、その原因が決意の弱さではなく、「変える順番」にあるというお話です。

    1. 「せっかくだから」が、最初のつまずきです

    よくある流れを一つ描いてみます。

    会計システムの入れ替えが決まります。それに合わせて、「せっかくだから」と経費精算も、決裁も、文書管理も一緒に電子化しようという話になります。中途半端に紙を残すと二重管理になる、という意見ももっともに聞こえます。

    切り替えの時期は、年度の変わり目に合わせたいという話になりがちです。ところが公益法人にとって、年度末から決算にかけては一年で最も余力のない時期です。

    決算を締め、理事会と評議員会(社団法人では社員総会)の承認を経て、事業年度の終了後3か月以内に事業報告等を行政庁へ提出する。この作業と並行して、新しい仕組みを複数同時に覚えることになります。


    2. 現場が止まるのは、非協力ではありません

    新しい仕組みに慣れるまでは、紙と電子の両方で処理する期間がどうしても生まれます。入力は二度手間になり、差し戻しも増えます。

    ここで現場から「いったん紙に戻しましょう」という声が上がることがあります。これを抵抗や非協力と受け取るのは、誤りです。理由は二つあります。

    ・ 通常業務は止められない。決算も報告も、期限は動かせません
    ・ 失敗したときの負担は、個人にかかる。入力ミスや期限遅れの責任を負うのは、目の前の担当者です

    期限を守るために慣れた方法へ戻るのは、担当者としてむしろ責任ある判断です。そして「いったん」のはずだった紙の運用が、そのまま定着していきます。

    振り返りの場では「うちにはまだ早かった」という言葉で片付けられ、次の挑戦は数年先へ送られます。しかし第1回でお話ししたとおり、止まる原因は人ではなく構造の側にあります。今回の場合、その構造とは変える順番です。


    3. 失敗する順番、止まらない順番

    止まる取り組みには、共通する順番があります。

    ・ 仕組みを先に決める
    ・ 運用の設計は、導入しながら考える
    ・ 紙と電子の二重運用で、現場が疲れる
    ・ 期限を守るために紙へ戻り、形だけが残る

    一方、止まらない取り組みは、逆の順番をたどります。

    ・ 一つの業務だけを変える
    ・ その業務で「回った」という実感を作る
    ・ うまくいった形を、隣の業務へ広げる

    もう一つ区別しておきたいのは、変えるべきものと、変えてはいけないものです。

    規程で定めた決裁の順番や承認権限は、電子化の都合で変えるものではありません。変えるべきなのは、記録の残し方と、判断の理由をどこに置くかです。前回扱った「書かれていない判断」は、こちらに当たります。


    4. 最初の一箇所は、どう選ぶか

    では、最初に変える一業務はどう選べばよいのでしょうか。

    手がかりは、このシリーズの中ですでに見つけています。第2回の「この案件だけ特別」という例外運用と、第3回の「規程に書かれていない判断」です。これらが集中している業務は、人が替わったときに最も困る業務でもあります。

    たとえば、特定の補助金に関わる経費処理や、複数の事業にまたがる共通費の按分などが候補になるでしょう。

    ここで実務上のポイントを整理します。

    Do: 最初の変化を「一箇所・一業務・一担当者」に絞る。開始時期は、決算・報告の時期を外して置く
    Don't: 「今回こそ全部デジタル化しよう」と号令をかけ、すべての業務を同じ日に切り替える

    一業務に絞ると、物足りなく感じるかもしれません。しかし、一つの業務が回ったという実績は、次の業務を変えるときの何よりの説得材料になります。


    5. おわりに

    意を決して始めたDXが止まった経験は、組織にその力がないことを意味しません。変える順番が逆だっただけです。

    全部を変えようとする決断は、大きく見えます。けれど組織を実際に動かすのは、一つの業務を確実に変え切ることの積み重ねです。

    まず、自組織の「最初の一業務」を一つだけ選んでみてください。例外が多く、判断が書かれていない業務。そこが出発点です。

    ただ、ここで一つの問いが残ります。そもそも、何のために変えるのか。「効率化のため」という答えでは、現場はなかなか動きません。

    次回は最終回として、「DXの本当の目的は"効率化"ではない」――公益法人に必要な「説明できる組織」とは何かを扱います。


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