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  • 2026.06.08
    なぜDXは止まるのか①: DXが進まないのは、担当者のせいではない――公益法人に特有の"停滞構造"とは

2026.06.08
なぜDXは止まるのか①: DXが進まないのは、担当者のせいではない――公益法人に特有の"停滞構造"とは

トピック・コラム

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はじめに
「今年こそDXを進めよう」と思いながら、また一年が過ぎてしまった。 そんな経験をお持ちの方は、決して少なくないはずです。

会計システムの見直し、給与明細の電子化、補助金管理のデジタル化。 「必要だ」とわかっている。でも動けない。 そして気づけば、担当者であるあなた自身が「自分の力不足では」と自責してしまう。

この記事では、そのような状況に置かれている方に、まずはっきり伝えたいことがあります。 **「あなたのせいではない」**ということです。

公益法人のDXが止まるのには、個人の能力や意欲とは無関係な「構造的な理由」があります。 その構造を正確に認識することが、唯一の出発点です。

    1. 「落ち着いたらやろう」が永遠に来ない理由

    公益法人・一般法人の現場では、こんな声が繰り返されます。

    「落ち着いたらやろうと思っているんですが、いつも忙しくて」

    この言葉には、重要な構造的事実が含まれています。 DXを「検討する余裕」が、そもそも業務設計に組み込まれていないのです。

    多くの公益法人では、経理・給与・総務を少人数で兼任しています。 通常業務をこなすだけで手が一杯になる状態が、恒常化しています。 そこに「新しい仕組みの検討」が加わると、どうなるか。

    担当者は「通常業務」と「変化の検討」を、同じ1人でやらされます。 どちらかを犠牲にしなければ、もう一方が回りません。 結果として、「まず目の前の業務」という判断が積み重なり、DXは先送りされ続けます。
    これは担当者の「やる気の問題」ではありません。 構造の問題です。


    2. 公益法人特有の"意思決定の重さ"

    公益法人には、民間企業にはない承認構造があります。 理事会・評議員会による意思決定プロセスです。
    これは本来、公益性を担保するための正当なガバナンス機能です。 補助金の使途や事業計画の変更を、複数の目で確認する仕組みは、公益法人の信頼性の根拠でもあります。

    しかし、この構造がDXの文脈では独特の摩擦を生みます。

    理事・評議員は多くが非常勤であり、法人の日常業務の場にいません。 医師・研究者・企業OBなど、デジタル業務とは異なる専門性を持つ方が多くいます。 そのような方々に、業務改善の必要性とデジタル化の意義を、限られた会議時間の中で説明し、合意を形成する。

    問題は理事・役員の姿勢ではありません。「DX推進の説明」が、このガバナンス構造に合わせた形で設計されていないことが問題です。

    民間企業なら担当者と上司の間で完結する意思決定が、公益法人では理事会という場を経由する必要があります。 さらに業務プロセスを変えることは、所轄庁(内閣府・都道府県)への報告書類や証跡管理にも影響します。 変更の影響範囲が広いため、「承認を取る前に動く」という選択肢がそもそも取りにくい構造です。
    この「意思決定の設計上の摩擦」が、DXの検討を長期化させる一因になっています。



    3. 「今のやり方で回っている」という最大の罠

    最も根深い停滞要因は、意外にも「現状への慣れ」です。

    長年運用してきた業務フローは、担当者の中で「当たり前」になっています。 手間がかかっても、ミスが起きやすくても、「これで回っているから」という感覚が勝ります。

    問題は、「最適化してきたはずのやり方」が、実はとっくに最適でなくなっていることに気づけない点です。

    実際にあるアンケート調査では、DXを「まだ検討していない」と答えた担当者の最大の壁として、「導入後の運用が想像できない」「判断の基準が分からない」という回答が多く挙がっています。 これは情報不足の問題ではありません。 「現状との比較軸」が頭の中に存在しないために、変化の必要性を自ら評価できない状態です。

    心理学では「現状維持バイアス」と呼ばれる認知の傾向です。 公益法人の現場では、これが特に強く働きます。 なぜなら、「今は回っている」という事実が、「変えなくてよい理由」として機能してしまうからです。



    4. 実務ポイント:今日から変えられること・変えてはいけないこと

    構造的な停滞要因を整理したうえで、実務で何をすべきか、何をすべきでないかを整理します。

    Do:停滞の構造を「言葉」にする
    まず取り組むべきは、「なぜ動けないのか」を構造として言語化することです。
    ⚫️「人手が足りないから」ではなく「通常業務と変化の検討を同一人物に求める体制になっているから」
    ⚫️「理事が理解してくれないから」ではなく「承認プロセスに合った説明の設計ができていないから」
    ⚫️「今のやり方で回っているから」ではなく「比較軸がないために変化の必要性を評価できていないから」

    原因を「構造」として整理すると、上司や理事への説明材料になります。 個人の問題として扱われていた課題が、組織として対処すべき問題として認識されます。

    Don't:個人の頑張りや特定のツール導入で解決しようとしない
    よくある失敗パターンは、2つあります。

    1つ目は、「担当者が勉強して何とかする」という方向です。 担当者の努力は尊いですが、構造が変わらなければ、努力は構造に吸収されます。 いずれまた「忙しくて動けない」状態に戻ります。

    2つ目は、「まずツールを決めよう」という方向です。 ツールを先に選ぶと、現場の業務フローや例外処理との整合性が後から問題になります。 「導入したが使われない」という結果は、ほぼ例外なくこの順番で起きています。
    構造を理解する前に「何を入れるか」を決めることは、止まったままの車にエンジンだけを交換するようなものです。


    5. まとめ:出発点は「構造の認識」にある

    DXが進まないのは、担当者の能力でも意欲でも、組織の悪意でもありません。
     ⚫️少人数兼任体制による「検討余力のなさ」
     ⚫️ガバナンス構造とDX説明設計の「ミスマッチ」
     ⚫️現状への慣れによる「変化必要性の見えにくさ」

    この3つが重なり合って、「動きたいのに動けない」状態を作り出しています。

    公益法人のDXを動かす最初の一手は、ツールの選定でも予算の確保でもありません。 「なぜ止まっているのか」を、構造として正確に認識することです。

    その認識があれば、上司や理事への説明が変わります。 「担当者が頑張れば何とかなる話」から、「組織として対処すべき構造的課題」に変わります。 そこから初めて、実質的な変化が始まります。
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    次回は、この停滞構造をさらに深刻にする"例外運用"の正体に迫ります。 「うちは特殊だから」「この案件だけ特別に」という判断が積み重なるとき、組織のDXはどのように止まっていくのかを解説します。
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