ヒューマンライズ Labo
- TOP >
- ヒューマンライズ Labo >
- 2026.10.28
「大学に任せているから大丈夫」は本当か?──内閣府事例集が示す奨学金選考委託の注意点
2026.10.28
「大学に任せているから大丈夫」は本当か?──内閣府事例集が示す奨学金選考委託の注意点
法令・制度改正

はじめに
奨学金事業を展開する公益法人の中には、候補者の推薦・一次選考を指定校(大学や高校)に依頼しているケースがあります。学生の日常的な状況を把握している学校機関に初期スクリーニングを任せるのは、特に小規模法人にとって現実的な選択肢です。
ただ、「学校に任せているから選考は問題ない」と考えているだけでは、公益認定の審査において思わぬ論点が生じる可能性があります。令和8年8月、内閣府は「公益認定等に関する事例集(暫定版)」を公表しました。同事例集は令和8年8月時点の暫定版で、今後随時更新される予定とされています。その中に、奨学金の選考を指定校に委ねる事業についての判断事例が含まれています。
この記事では、事例集の第1番目「奨学金の選考体制に関する判断事例(令和7年変更認定)」に絞って、どう判断されたか、そして法人が今すぐ確認すべき実務ポイントを整理します。事例②以降(奨学金の分野・承継・金額)は別の機会に扱います。また、奨学金の会計処理については本記事では扱いません。
目次
1. 何が問われたのか──「選考の公正性」という論点
内閣府の事例集によると、この案件では、法人が指定校(大学)に簡素な内容で選考基準を示しており、実質的な選考における大学の裁量が大きい奨学金事業が対象でした。
事例集が示す論点は次のとおりです。
・ 選考の公正性に関して疑義があること
・ そのうえで、事業の合目的性が確保されているか
「事業の合目的性」とは、公益認定等ガイドライン第2章第1節第3(5)に関わる考え方で、事業の趣旨に応じたプロセスが確保されているかを確認するものです。
本件が変更認定の場面で論点になったことからすると、新規の認定申請時だけでなく、事業を拡大・変更するタイミングでも同様の視点で確認される可能性があると考えられます。
2. なぜ「合目的性あり」と判断されたのか
事例集の「公益認定基準への当てはめ」では、次の3点を挙げて、この選考方法でも事業の合目的性は確保されていると判断しています。

事例集の解説は、学生の状況を日常的に把握している大学や高校等に一次選考やスクリーニングを依頼することは、「特に小規模な法人にとって一定の合理性がある」とも記しています。
また、「人手不足の社会情勢において小規模法人が事業拡大する上で委託を積極的に活用することも有益」であるとも述べられており、委託活用を一律に否定する立場ではないことがうかがえます。
一方で、事例集の解説は次のようにも述べています。
「大学において適切に運用がなされているか、定期的なチェックが必要であるとの指摘がなされており、法人において、学校側で奨学金の趣旨及び目的から外れた選考が行われないよう適切に確認を行うことが望ましいと考えられる。」
委託を認めつつも、学校側の選考が奨学金の趣旨から外れないよう法人側で確認することが望ましいとされている点が、この事例の核心です。
3. 実務ポイント──今確認すべきこと
Do:やるべきこと
・ 委託先への定期チェック体制を設ける
事例集の解説には、定期的なチェックが必要との指摘があったことが記されています。頻度の定めはありませんが、たとえば年1回、指定校担当者との確認と記録を行うところから始めるのが一案です。
・ 重要な部分を委託しているなら、事業計画書・事業報告に委託の事実と業務内容を記載する
ガイドライン(第2章第1節第2(2))では、事業の重要な部分を委託している場合には、事業計画書及び事業報告において委託の事実及び委託している業務内容を確認できることが必要と定められています。
・ 選考規程に選考の手順と責任区分を明記する
事例集に掲載された本件法人の申請書の記載では、一次選考(指定校担当)・二次選考(法人選考委員会担当)の役割と基準が規程上で区分されていました。こうした規程の整備は、審査で選考体制を説明する際の裏付けになると考えられます。
Don't:やってはいけないこと
・ 「指定校を信頼しているから大丈夫」だけで委ねない
今回の変更認定は、信頼できる学内体制のある大学を選定したことが根拠の一つです。しかし事例集は同時に、定期的なチェックが必要との指摘があったことも記しています。信頼を前提にしても確認まで省略すれば、実質的な「丸投げ」になりかねません。
・ 選考基準を簡素すぎる状態で渡したまま放置しない
今回の事例では、法人が簡素な内容で選考基準を示していたことが、選考の公正性に疑義が生じた背景にあります。指定校が何を根拠に選考するのかが法人側から見えない状態は、審査で問題視される可能性があると考えられます。
4. 現場での判断基準
迷ったときの1問:「委託先が今年度どう選考したか、法人は把握できるか?」
「把握できる」 → 記録を保管し、事業報告に反映させましょう。
「把握していない」 → まず最小限の確認ルートを設けることが先決です。
5. まとめ──次の一手は「委託先チェック体制の確認」
今回の事例が伝えていることは、外部委託そのものがNGなのではなく、委託先の管理体制が問われるということです。
小規模法人が大学等に一次選考を依頼することは、内閣府の事例集も「一定の合理性がある」としています。注意したいのは、委託したまま確認の仕組みを持たないケースです。
今すぐできる次の一手:
選考を外部委託している法人は、まず「委託先(指定校等)が適切に運用しているかを確認する体制があるかどうか」を見直してください。仕組みが無ければ、年1回でも担当者確認と記録が残る最低限の手順を設けることが出発点になるでしょう。
弊社ご利用の法人様へ
奨学金事業の事業計画書・事業報告への委託記載の書き方や、選考規程の整備についてご不明な点があれば、弊社サポート窓口またはご担当コンサルタントにご相談ください。内閣府の事例集を踏まえた実務対応について、個別の状況に応じてご支援します。







